ホルマリン漬けの人体に神秘を感じた瞬間(閲覧注意)

【プミポン前国王も入院治療を受けていたシリラート病院(SIRIRAJ HOSPITAL)】


タイ国内最大にして最古のシリラート病院の敷地(その広さ東京ドーム4個分)には、一般人も入場可能な医学に関する博物館が6つ存在する。医学と言われてもピンとこないかもしれないが、ここではホルマリン漬けの本物の死体やミイラが見れるという理由で、昔は興味本位で訪れる日本人が多くいたものである。


シリラート病院の敷地は広い

【地図にはグラウンドやプールまであった】


タイという国は実は医療にとても力を注いでいる。日本同様に国民皆保険だし、タイ国籍であれば診察も入院も自己負担額はたったの30バーツだけ。包括的に医療システムが充実しており、世界基準で見ても質の高い治療を受けられることで有名なのだ。だから医療目的で滞在する外国人は非常に多く、病院側もどこの国の人間にも対応できるようにと、言語教育も徹底してなされている。シリラート病院の病床数は2000以上だと聞いた。

東京ドーム4個分とも言われる敷地内には、看護学校や医療従事者の宿泊所も併設されていて、レストラン街からスーパーマーケット、銀行、メガネ屋、バスケットコートやスポーツジムまで、生活するうえで必要な施設が全部整っている。患者にとっても労働者にとっても、私のようなただの観光客にとっても、この中でずっと暮らしていけると思ってしまうほど素晴らしい環境である。



【建物に入るとどこの大学病院にもある普通の医務室があった】


中に入るとどこから見ても病院だが、博物館のチケット売り場はあった。外国人は200バーツの入場料を支払い、主にホルマリン漬けの赤ちゃんの死体が並ぶ展示を見ることができる。何らかの理由で流産や死産で親のお腹の中で亡くなってしまった胎児たちである。内臓は取り除かないと保管ができないのでお腹の縫い目が痛々しかった。一見、子供の頃に赤ちゃんごっこであやして遊んだゴム人形みたいだったが、固く目を閉じたその表情が仏のように見えて不思議と怖さは感じなかった。五体満足とよく言うけど、身体とはこんなに複雑な作りになっているものなのかと目からウロコである。

タイは国民の95%が仏教だ。水子供養は仏教の儀式らしいけど、あれは日本特有のものだろう。生きて産まれてくることが叶わなかった胎児を、医学のために提供して、後世の学びに繋げるのか、寺で供養するのか。こんな所でも文化の違いを感じる。高いお金で供養して本人の気が晴れるならまだ良い。だけどもし水子の祟りなどと言って不安を煽る人間がいるとすれば、それは宗教でも何でもなく、ただのお金と心の搾取だろう。ちなみにタイでは日本のような個人のお墓も存在しない。私自身、筋金入りの無神論者なので、合理的な考えのタイに一票を入れたいところである。


解剖学博物館

【解剖学博物館(DEPARTMENT OF ANATOMY)入口】

【人体を縦に切った標本は、もはや死体とは感じない。陰毛だけが生々しかった。】


体の内部をあらゆる角度から見つめられる数々の解剖の展示を、グロテスクの一言で片付けることができなかった。だって解剖すると自分の身体もこうなってるんだぜ?もはや自分がこの体でこの世に存在していることが奇跡なのかもしれないと思った瞬間、母の日なんて結局ただのマーケティング戦略にのせられて、義理で花や食べ物を贈りつけていただけなのだと気付いてしまった。この時私は、多分生まれて初めて産んでくれた母親に感謝の念が湧いたのだった。

解剖学博物館は冷房の設備もないほど古く、廊下に大きな扇風機が置いてあるだけだった。だが歴史を感じる重厚な木造建築はとても美しく、筆者は居心地が良過ぎてここに住みたいとさえ思った。

人体に宇宙的神秘を見た

【人間の頭部を徐々に横にスライスしていった標本】


頭部、腹部などを徐々にスライスしていった臓器のホルマリン漬けも、ここまで綺麗に並べられるとさすがに見慣れてくる。ここではいつか理科室で見た全身骨格標本も並んでいた。もちろん全部本物の人骨である。筆者はチビなので、生まれながらにして体が大きい元バスケットボール選手の骨格を興味深く観察。身体障害者という言葉があるけど、それって本当に障害なの?ただの個性じゃないの?だったらカンペキな身体って一体なに。答えの出ない疑問が次々と浮かぶ。ケースに入っておらず直に触れられる人骨模型もあったので、意味もなく指を絡ませてみる。恋人繋ぎの相手は骸骨だった♡

6つの博物館の中の1つは、連続殺人を犯してそれらの遺体を食べたという異常者(名前:シーウィー)の死体が防腐処理を施されて、晒し者状態で保管されていることでも有名だった。電話ボックスのような中に立たされて、筆者が行った時は、扉を閉めた瞬間に鼻が手前のガラス面にくっ付き、そのまま横に5cmほどスライドした跡が残っていて、おもしろ怖い感じになっていた。

お前が有名凶悪犯のシーウィーかよぉ、と背の低いヤンキーが下からガンを飛ばす時の姿勢でシーウィーを見上げると、その目の中にゾッとする何かを感じた。
ただ時代と共に死刑囚の遺体の見世物には批判の声も増えたらしく、ミイラはコロナ禍の間に展示を辞めてようやく火葬されたようである。ようやく成仏。良かったね、シーウィー、、、。

私が訪れた時はまだ、スマトラ沖地震による津波で回収された遺体(というか、タトゥーが入っている皮膚の一部分など)も展示されていた。寄生虫に侵された身体がどのように変化してゆくのか、銃で撃たれた頭部をスイカのように割るとどうなっているのかも見学できた。展示は徐々に入れ替わっていると思うので、今も見れるのかは不明である。2004年12月26日にインド洋沿岸諸国に甚大な被害をもたらしたあの巨大地震は、今ではもう遥か昔の話なのかもしれない。

シリラート病院の博物館は「一般の人間にとっての、生命の神秘を考える機会を提供している場所」と言っていいだろう。いつだって固定観念の外し方は、普通は行かないような場所へ行き、普段見ないようなものを見ることなんだと思う。


シリラート病院のフードコート

【シリラート病院のフードコートは国からのお墨付きだった】


見学を終えたら本当は近くのワンラン市場へ行くつもりだった。解剖学博物館の受付にいたお兄さんに市場の方向を尋ねると、ご丁寧に一緒に歩いて誘導してくれて、たどり着いた先がこのフードコートだった。いや、ここじゃない!と言おうとした瞬間、The Best Qualityの文字が目に留まった。なにやら国からお墨付きを貰っているフードコートらしい。病院の食堂だと言うのに、どこから見ても元気そうなカップルも紛れてごはんを食べていた。

バンコクの夏は暑い。ここならクーラーも効いてるし、ま いっか。

最初は買い方がよくわからなかったが、受付でチャージをして使う使い回し用のカードを貸してくれた。食後は受付にカードを返却すると残高を返金してくれるというとても効率的な仕組みである。


【歯医者でしか馴染みのない滅菌用の機具】


病院のフードコートとは言え、カトラリーの横に滅菌用の機器が設置されているのには驚いた。なかなか画期的である。


【Roasted Duck with Rice (60バーツ)& カフェラテ】


右のテーブルには骨折入院中の松葉杖を持ったパジャマ姿の男性がいて、向かいには若いドクターがスマホを片手に食事をしていた。旅先で、さらに外国の病院の食堂で昼食を取るなんて滅多にないおもしろ体験である。市場に行かず、涼しい院内で食べて正解。ただ、さすがに病院のフードコートでビールプハァ♪ とはいかない。買い方を習得したところで、ここは特大サイズのアイスラテにとどめておくことにした。
なお、シリラート病院の敷地にはこのフードコート以外にもカフェやらレストランやら食べる所はたくさんある。

たくさんの遺体を見た直後によく食事が喉を通るね。
これは後日知人に言われたセリフだが、シリラート博物館の数々の標本は私にとってまったく問題Nothingだった。この時点までは。


バンコクでの晩酌タイム

【おつまみで買ったハムの模様が人肉に見えてしまった瞬間】


同日の夕方、ビールのつまみに量り売りのハムを数種類買って部屋に戻った。
昼間に輪切り人体を見たことをすっかり忘れていた私は、ハムを口に運んだ瞬間!!!!!!!!!
ピスタチオ入りの模様が人肉と重なってしまい、うっっっ!! 一瞬手が止まった。

深呼吸後、人体は人体、ハムはハムと割り切って食べましたけど。
(そんなことよりビールを並べ過ぎ!)


最後に。


シリラート看護学校の生徒たち

【初々しい看護学生の皆さん。輝く未来に羽ばたいて欲しい。】


ナースを目指す生徒さん達もみんな授業の一環として死体見学をしていた。医学博物館の受付前で声をかけたら、喜んで写真を撮らせてくれたのだ。最初は4人だったのにシャッターを切る直前、真ん中の子が「私も混ぜて!」と言わんばかりに飛び入り参加。初々し過ぎて胸キュンである。自分にもこんな時代があったんだよなぁ、、、。夢と希望に満ち溢れていた、遠い過去の話である。

バンコクのシリラート病院で、生命の脆さと人体の奇跡に触れられて感動ひとしお。食堂のご飯も美味しかったし。医療も観光資源の一つにしてしまう、タイという国の未来はきっと明るいはずだ。