国際ロマンス詐欺に騙されるフリをしてみた

【江ノ電:この写真が千と千尋の神隠しの水上を走る電車に見えたらしい】


事の発端はインスタグラムである。
筆者はトラベラーズノートに絵を描くことがあって、あまり好きでもないインスタをやっている。煩わしいのでコメント欄を消去しているが、たまにメッセージ(DM)が届くことがある。(通知もOFFにしているので、このDMすら2年間も気付かずやり過ごしていたこともあった。)
DMの内容は基本的に「イラストの色付けは何を使っているの?」「この美しいモスクの場所はどこ?」といった、何の当たり障りもないものが多い。だいたい返信はしてきたが、つい面倒で二、三日放置していると、どこかのイスラム圏のカフェらしきアカウントから「おい。このモスクの場所教えてくれよ」という催促のメッセージを貰うこともあった。旅行好きの自分としても、こういった質問にはなるべく親切に答えてあげたい気持ちはある。

ある日、七里ヶ浜を走行中の江ノ電で撮った写真についてDMが届いた。電車が水上を走っているように見えて、千と千尋の神隠しみたいだという内容だった。「そう言われると似てますね」テキトーに返すと、次日本に行く時に訪れたいので場所を教えて欲しいと言ってきた。ここは親切に、鎌倉-藤沢間を走行する江ノ電のことを教えてあげることにした。そのアカウントとメッセージが以下である。




この時点で筆者は、このアカウントの人物が過去にどんな投稿をしているのか気になり、インスタの写真一覧をざっと見始めた。




それは一見、誰でも投稿していそうな私生活の一コマだった。普通のフィッシュマーケットだったり、友人と一緒に食べているテーブル上の食事風景だったり。少々鼻についたのはショッピングデーだと言ってルイヴィトンで買い物をしていたことくらいだろうか。だけどシンガポール辺りなら結構当たり前な光景の気がしなくもない。


アカウントの詳細は以下

フォロワー687人/フォロー67人 
インスタを始めた日(Date joined 2023 March)
過去にユーザーネームを変更した回数(Former user names 1)

一年ほど前に、横浜みなとみらいの観覧車の写真が投稿されていた。横浜やみなとみらいは自分にとっても馴染みのある場所だったから親近感を覚えた。江ノ電の乗り場はこの観覧車付近から30分程度で行けることを伝え、ついでに鎌倉の観光客の多さに文句を垂れておく。その後、以下のやり取りへと続いていった。




筆者の趣味は海外一人旅である。普段から他国の情報収集に余念がない。マレーシアへはまだ行ったことはないが、過去に住んでいた知人もいて、少しの情報は持ち合わせている。マレーシアからの通勤圏でもあるシンガポールには行ったことがあった。(マリーナベイサンズがオープンする前だから相当昔だけど。)


Markと名乗る男の自己紹介

自分はブルネイ人で、大学卒業後に家族でマレーシアに定住した。
現在父母は自分が住むクアラルンプールから車で40分くらい離れた場所に住んでいる。シンガポールに初めて行った時はもう27才だった。
仕事でよく色々な国に行き、一番好きな国は日本。日本の観光業はとても発達している移民は日本に住む富豪も多いので、日本という国の魅力を感じることができる。
食べ物も美味しく、美しい四季がある。仕事で少しだけ日本の港区に住んでいたことがある。その時はホテル住まいだった。
大阪、横浜、石川県にも行ったが仕事での短期滞在であまり時間が取れなかった。
次に日本に行く時は十分に時間を取るつもりでいる。仕事関係で知ってる日本人は数名いるが、何のしがらみもない友達と呼べる関係の日本人はいない。
日本語は難しいが少しづつ勉強していることもあり、日本人の友達が欲しい。

今シンガポールでは新しい建物が増えて、新しい観光地も出現しているから、機会があればSaekoもまた遊びに来て下さい。喜んで案内します!


まず太字部分にツッコミたい。

日本の観光業は別に発達などしていない。英語は全く通じないし、外国人旅行客数はコロナ後で円安の現在でも年間4000万人弱だ。他国の有名観光地、例えばフランスと比較してもその数は半分以下にすぎない。

富豪は日本などスルーである。アジアだったらそれこそシンガポールへ行く。

四季は日本だけのものではない。むしろ地球上のほとんどの国に四季はある。
仕事でいろんな国に行ってるなら尚更わかるだろ。

※ 筆者は「富豪」という単語が出た時点でちょっと嫌な感じがした。


自己紹介パート2

両親はブルネイにいた頃から商売人だった。裕福な家庭で育ったと思う。
母は反対したらしいが、19才の誕生日プレゼントは父親が勝手に買ったベンツだった。自分の希望ではなく強制的にプレゼントがベンツだった。このベンツはしばらく乗ったけど、24才の時にちょっとした事故で廃車になりました(笑)
高級スポーツカーを買うのが趣味の友達がいるんだけど、自分は見せてもらうだけで車にはあまり興味がない。マレーシアでそのような車で走っていると、エンジン音がうるさくて街を歩いている人にあまりいい目で見られません。

姉が一人いて(確かドイツだったか、オランダだったか、まぁその辺り)に住んでおり、年に1度親に顔を見せに帰ってくる。母親の姉はオークランド住まい。
もう高齢だし、母と一緒に商売(美容院を複数経営)をしていることもあって、母親が年に何回かオークランドを訪ねている。


相手はインスタに複数、己の姿をアップしていた。その中の一枚がこれだ。筆者のタイプは昔からレオ様やブラピ、ラルクアンシエルのハイドなどである。だからこの人物が世間一般的にイイ男なのかは知らない。

自己紹介パート2の話には1ミリも興味が湧かなかった。まぁアメリカのビバリーヒルズあたりに住んでる子供の中にはそのくらいの年齢でベンツを買って貰う子は普通にいるかもしれない、などと思ってあまり深く考えず適当に聞き流した。(筆者はベンツよりキャンプへ行けるジープみたいな車が好み。)

私は元々アメリカを始めとする多民族国家に居心地の良さを感じる人間なので、国を跨いで外国人の友達を作ることに一切抵抗がない。単純にマレーシアに知り合いができたのだと思うことにした。ちょうど外国人からの「日本が好き」「日本の食べものは美味しい」発言に辟易していたところだったので、「住んでないからそんなことが言えるんだよ」「日本には年間アメリカの3倍の自殺者がいる」などと日本のブラックな部分を晒しておく。ついでに「自分がもし外国人だったら絶対に日本語など勉強しようとは思わない。時間の無駄だから辞めておけ。」と付け加えた。

ここまでの内容はインスタのDMでやり取りをしていたが、マークはInstagramだとメッセージ表示が遅れてコミュニケーションがスムーズにいかないと言い始め、ここから先はLINEへと誘導してきた。しかし筆者はLINEをやっていないのである。

あれ? この流れ、もしかしてウワサの国際ロマンス詐欺じゃない?

「LINEは日本人しか使っていない認識なんだけどマレーシアでも使うの?」「私はLINEのアカウントを持っていない」「WhatsAppではダメか」と問うと、WhatsAppは仕事で使っていて明確に使い分けをしているらしい。そしてマークが日本を訪れた際に、日本人はみんなラインを使っていたから、私がラインをやっていないことにだいぶ驚いていた。

LINEの登録はすぐにできるものだけど、でも今はSNSが増えたから自分に合うものを使えばいいと思う。あなたの選択を尊重します。

マークはそう言ってLINEを無理強いせず、相手に判断を委ねる対応をしてきた。 が!
この直後のやり取りを見返すと、全部?マーク付きでメッセージが届いていることに気付いた。

 「ところで、、、」 ↓

「マレーシアを知っていますか?」
「あなたもたくさんの国に行ったことがありますか?」
「シンガポールではどこに行きましたか?」
「どこの国が一番好きですか?」
「あなたの故郷は日本のどの都市ですか?」
「さっきの話に戻るけど、なぜ日本では自殺者が多いの?」


警視庁によるSNS型ロマンス詐欺のサイトを読むと、手口がまさにマークと同一である。弁護士サイトにも目を通すと、被害に遭ったある女性の実話では、実際にメッセージを送っていたのは西アフリカに住む子供だった、などという情報もまさかの犯人の顔写真付きで掲載されていた。

ここからどんな風に話が展開していくんだろう。どのタイミングでお金を引っ張り出す話が出るのだろう。実際はどこの国からメッセージを送っているのだろう。
「時間の無駄だから即ブロック」VS「これも一つのおもしろ体験」二つの考えを天秤にかけた時、好奇心が勝った。これは場合によって一冊本が書けるくらいのネタになるかもしれない。詐欺師かもしれない相手に対して、こちらも悪賢い考えが脳裏を過った。



LINEへ誘導される

【マークと名乗る男のLINEアカウント画像】


私はLINEのアカウントを作成してみることにした。ここから2週間、LINEでのやり取りが始まったのである。LINEに移行してからの最初の会話は「何のしがらみもない初めての日本人の友達が出来て本当に嬉しい!」「インスタの投稿を見たが、あなたは色々なところを旅する人のようだ。僕も仕事で色々な国に行くので、きっと話が合うと思う」といった感じで始まった。

最初は気を使って英語で返していたが、日本語のまま送信して欲しいと言われた。こちらからのメッセージはGoogleではない翻訳ソフトを介してマレー語、場合によっては英語に変換をして、なんとか解読しているという話だった。



頻繁に私生活の写真が送られてくる

翌日から「おはようSaeko。今日の予定は?」というモーニングメッセージと共に朝食の写真が送られてきた。写真は中国式の朝食でマレーシアではよく見られるメニューなのだそう。飲んでいるのは砂糖入りの豆乳だって。相変わらず?マークで終わる文章で〆ている。返信を促し、メッセージを続けさせようとする手段なのだろう。

日本人は通常どんな朝食を食べてるんでしょうね。通常と聞かれても私もそんなことは知らない。和食から朝食抜きの人まで様々だろう。自分の場合は毎日ブラックコーヒーとパン、サラダ、無糖無脂肪のヨーグルトとお決まりコースである。これを伝えると「脂肪を落としてスタイルをよく保つことができるメニューだ」と褒められた。

スタイル??? 

筆者はこの言葉にピンときた。「スタイルを保つ」という言葉は実は日本人しか使わない。少なくとも英語圏の人は絶対に使わない。通常は体型のことをスタイルとは言わないのだ。「スタイルが良い」とは表現方法やデザインなどの「センスが良い」という意味である。

それと、昨日までのメッセージは日本語が少し変で、何という単語を入力しているのかわからないが、やたらと「相対的に」という言葉が使われていた。「比較的」も多く登場して、翻訳された文面から、なんかよくわからんけど知的っぽくて洗練された文章が書かれているような気分に陥った。しかし今日はまったくおかしさのない普通の日本語である。これはもしかして2人の人物が交代で返信しているのかもしれない。しかもそのうちの一人は日本人じゃないか・・・? それか中国人。そんな憶測が頭をよぎった。

この日から毎日夕方も「今日のスケジュールは終わりました。今から家に帰ります。」などの報告メッセージが届くようになった。そして、その後は必ず友達と夕食を食べに出かけるのがこの男のお決まりコースである。



インスタに金融会議をアップ?



マークは大学で金融について学び、そのまま金融関係の仕事に就いたそうだ。ただ現在は自分の会社を2つ持っていて、そのうちの一つは金融とは何ら関係のない建築デザイン会社だと言う。この建築デザイン会社は友達と一緒に起業をして、今はほとんど友人の方に仕事を任せているという説明だった。前回出張で日本を訪れたのは、日本の建築方式を学ぶためだったと言っている。

『へぇ〜♡マークは金融・建築・デザインと全部異なる分野で活躍してて凄いね!』

心にも無いセリフを吐いた。

日本の家は狭くて嫌いだと言う私に、「日本の建築は凄いんだよ。小さな面積の家でも設備が整っている。」「一言で言うと、スズメは小さいが五臓は揃っている!
また、「密着建築度が高く、デザインレベルが高い」そうだ。

密着建築度????? 密着建築度ってなんだ・・・?笑
デザインレベルが高い?  筆者は首都圏含め、複数賃貸物件に住んできたけど、デザイナーズ物件でもない限り「この部屋のデザイン、レベル高っ!」となることはない。それどころか日本の分譲マンションやワンルーム、アパートはだいたいどこも同じ間取りじゃねーか? スズメのくだりは何となくわかってる風なことを言ってるだけだし、細かいことを指摘するとその表現に臓器が出てくる辺りに中国を感じてしまった。

上のインスタ写真は「元々金融関係の仕事をしていたから、今でもたまに金融会議に呼ばれる」との説明だった。それも「友達と一緒に呼ばれる」そうだ。これはリアリティを出すための作り話だと思うが、少し前にその金融関係の仕事で大きな損失を出してしまい、今その修正に追われているらしい。まずそれ以前に金融絡みの会議の場で写真なんか撮らないし、インスタにアップはもっとヤバいだろ。普通に考えたらクビである。 You’re fired!!


今日は金曜日。夜は友達と夕食の約束があるからそろそろ出かけるよ。明日の週末は友達と海に出かけます。Saekoにも写真を共有するね。おやすみ、良い夢を見て。

毎晩LINEでの会話の終わり方はこんな感じだった。



友達や後輩との休日写真


翌日。天気が悪いから海行きの予定を変更して、Pulau Klangへ来たとの報告LINEである。
あっそ。別に話す事もないので「マレーシアの暑い気候でお友達はどうしてマスクをしているの?」と返す。返事は「マレーシアは空気があまり良くないし、コロナがあってからは自分もよくマスクをしている。」のだそう。この一ヶ月前に筆者はタイ、ベトナム、香港へ出かけていた。ホーチミンでのバイクの排気ガス対策以外、このクソ暑い時期にマスクなどしている人間は皆無だった。絶対に嘘である。このように友人や後輩と一緒のプライベート写真を出されると、自分に友人を紹介してくれた気分になるし、こちらも友人側に紹介されたような気分に陥る。これはよくできた心理作戦である。

ところでこの人、昼も夜も週末も必ず友達と遊んでご飯を食べに出かけてるけど、これは何かのアピールなんだろうか??? もしかして友達多い自慢とか?

筆者はそもそもごはんを一緒に食べたいと思えるほど気の合う人がいない。一人料理、一人飯、一人酒、一人旅、お一人様最高人間。たぶん私はソリタリーなのだ。孤独を愛する身としては友達友達と連呼されることにだんだんイラついてきた。いい大人にもなれば友達なんて数える程度しかいないのが普通だろう。



それとなく「資産」を匂わせる

【チャート画面を開いたPCを見せつけられる】


マークは会社経営や金融関係、投資や株など数字を得意とする雰囲気を醸し出してきて、上のような写真も届くようになった。筆者は文系人間で数字が大の苦手である。このことを素直に伝えると「経済新聞や雑誌も見ないの?信じられないな。全然難しくないから僕が教えてあげる。」「逆にSaekoは様々な国の文化的なことなど、僕の知らないことをたくさん知っている。だからこそ私たちはお互い共有し合う必要があるんだ。」などと言ってくる。




「教えてあげる」←これについては、まず暗号資産のコインチェックのアカウントを作るように促された。ちょん切れているが上のスクショがそれ。筆者はこれまでビットコインなどに手を出したことはない。ちょっと前に青汁王子がユーチューブで暴落して泣いてたやつやろ? くらいの知識しか無いが、調べると確かにコインチェックの登録は無料。使い始めるには本人確認書類のアップロードと、その後本人宛に書留が届いて、それを受け取らない限り仮想通貨を買ったり売ったりはできない仕組みである。どの通貨も最低500円分から買うことができる。しかしマークは、登録が完了したらおすすめの入金額は2000USDだと言ってきた。私がこれをキッパリ断ると1000USDでも問題ない。でもオススメは2000ドル。有名なのはビットコインだがイーサリアムの購入を促してきた。そして口癖のように「あなたの資産を守ります」を連呼するのである。「2000円分の購入ならいいよー」と返したら、「何が2000円ですか?」と言葉が通じないフリをされた。

なぜ見ず知らずの相手に指示をされ、面倒な本人確認書類のアップロードなどしなければならないのだろう。イラつきながらも無料の登録まではしてやろうと思ったが、日本の場合2020年以降に発行されたパスポートは本人確認書類として使えないらしく、私のパスポートはそれに該当していた。ついでに私はマイナンバーカードも作っていないし、この時は日本国内に住所も置いていない状態だった。だから住民票のアップロードもできない。何もかもお手上げである。そんな状況なので「この流れって、最近流行っている国際ロマンス詐欺だよね?」と送信してみることにした。



突然の逆ギレ。こちらを詐欺師呼ばわり


マークは自分のことを42才だと言っている。元奥さんは、マークの資産を一部持ち逃げして結婚生活が破綻した。あの時のことは思い出したくもない!この話はしたくない!過去にそんなことがあったから、本当はSaekoには自分がデジタル通貨を扱う人物だということを言いたくなかったんだ!でもSaekoならきっと大丈夫だと思ったから、僕がきちんとあなたの資産を守ってあげたいと思ったのに、僕を信用していないんだね? 今すぐビデオ通話をしてきちんと話そう!あなたが私を詐欺師だと思うように、あなたも詐欺師の可能性がある。僕の資産を横取りしようとしているのかもしれないからね! と怒り出した。

ビックリしたのは「今すぐビデオ通話しよう!」の一言である。
これはカマをかけているのか、それともAIによるディープフェイクを使ってる?!

どちらにせよ、この時私は真っ昼間から近所の回転寿司屋でビールとハイボールを数杯飲んで、千鳥足で住宅街を歩いている最中だった。こんな姿を見られてはマズい。
おまけに筆者の姿は20才の時の写真を送り付けておいたから、それもバレたら気まずい。
この時点でどっちが詐欺なのか自分でもよくわからなくなり一人で笑った。

「マークにそんなふうに怒られると思わなかった。今ワタシ、泣いています!泣き顔をあなたに見られたくない!だから今はビデオ通話できません ごめんなさい!本当にごめんなさい!」そう返信をして、自宅のベッドに倒れ込み夕方から夜まで酔っ払って眠ってしまった。


起きたら筆者の大嫌いなLINEのスタンプが2つ届いていた。 
めんどくせー・・・。

(それに比べWhatsAppはシンプルで大変よろしい。)


2000ドルのイーサリアムの購入を促す文面や、上記のメッセージはご覧の通りわりと長文である。にも関わらず、あまりタイムラグがなくポンポン送信されてきた。恐らく毎回使っているテンプレートなのだろう。

どうも相手には日本の「ハガキによる本人確認」のルールが伝わらなかった。おまけに私は半分日本国内にいない人のように、一部の本人確認書類を持っていないから登録ができない。すると今度はCLBckboxなるものをダウンロードしろとの指示である。この辺りでお互いフラストレーションが溜まり始める。相手もそれを察知してか「1、2ヶ月以内に仕事を調整して日本に行こうと思っている。」と言い始めた。




「日本に行ったら、もちろんSaekoにも会う。」と言うので、「じゃあその時は、ウチの両親と私とマークで奥入瀬渓流のホテルに泊まりに行こう!」「予約取っていい?」と畳みかけるとめちゃくちゃ焦り出して、「Coincheck 登録できましたか?」「できなければCLBckboxをダウンロードして下さい」「ワタシがやった時はハガキなんか無かった。なぜそのようなことになるのかわからない」などと口調が変わり始めた。

筆者から送信した上記画像の「時間を無駄にしましたか?」これが一応最後のメッセージである。

上記のスクショに、小さなメロンを2つ云々、のくだりがある。これは書くのも気持ち悪いのだが、筆者のバストのサイズの話題が出てきて「ABCD←どれ?」「E」というコントみたいなやり取りがあったのだ。気持ち悪い。マジで。おっぱい星人かよ。多くの外国人って胸よりケツの文化じゃーん? 他にも「お風呂を覗いちゃうぞ〜」みたいな発言もあったりして、この辺りの変態感ダダ漏れのやり取りからしても、詐欺師はやっぱり日本人か中国人なんじゃないかと思っている。オッパイ好きの覗き魔で人種がバレる。最悪である。



実はこの日、日本では韓国の統一教会に対して解散命令が出された日だった。相手がもし日本人ならこのニュースを知っているかもしれない。そう思って、笑わせてあげよう精神から「あなたの血液にはサタンがいるのかもしれない。」「壺を買った方がいいよ。」と、ふざけたメッセージを送りつけてからブロックした。

結局、一番最初の嫌な予感の通り、マークと名乗る人物は詐欺師だったわけだ。週末予定を変更して遊びに行っていた公園での自撮り&後輩の写真も、出前の寿司の写真も、お母さんの話も、仏教寺院での修行の経験話も、全部写真付きだったけど嘘なのだ。とてもよく作られたシナリオだと感じた。文面や言葉の端々から違和感を感じ取ることができたのは、筆者がそれなりの海外経験があることと、普段からよく本を読んでいるせいかもしれない。文章を読む行為は、書かれている文字通り受け止めるのではなく、行間(ぎょうかん)や間(ま)を読むことにあると思う。


日々のやり取りを一部紹介

【左:絶対にネタでしかない失敗作の太巻き/右:己の建築デザイン会社で扱っている物件、とのこと】

寿司で好きなネタは肉松とウニが良い味だと言っていた。肉松とはなんぞや? ネットで検索したら、台湾や中国の情報が出てきた。こいつの拠点はやっぱり中国か? そう思いつつ「マレーシアに住んでみたいから、私がクアラルンプールに行ったら部屋を借りる時に手助けして欲しい♡」「ペトロツインタワー近くのKLCC Parkでデートしよう♡」と言ってみると、先方からはやはり焦りを感じられた。「部屋を借りる手助けはもちろんだよ」と言いつつ、本当にマレーシアに行かれたらヤベェ!と思っているのが感じ取れた。「KLCC Park はお年寄りしか歩いていない。今時の若者はもっと違うオシャレな場所にデートで行く。BARとか。」という返答にもかなり違和感である。KLCC Parkはモダンに作られた新しい公園で、美しい噴水ショーやプールまであるような所だ。デートなんかしてるのは老夫婦だけ、というのが絶対嘘なのはネット情報を見ただけでも一目瞭然である。




旅先での出来事は見え透いた作り話


仕事で海外に行った経験はたくさんあるが、旅行で行ったのはアイスランドとスリランカだけだと言う。旅に出ると非日常の出来事が必ず起こるものだ。ということで、旅先での出来事を聞いてみることにした。


【スリランカ編】
大学生の時、友達複数人でスリランカへ行った時のこと。BARで飲んでいたら、どこかの国の彼氏と彼女のカップルが旅先で喧嘩別れしている場面に遭遇。彼氏はどこかに行ってしまい、彼女が一人でお酒を飲んでいたら、ガラの悪い連中が彼女を娼婦と勘違いしてナンパし始めて揉めた。一部始終を見ていた友達が警察を呼んで、一連の出来事を警察に説明し、彼女を助けてあげた。

【アイスランド編】
休暇でアイスランドに一人で行った時のこと。ホテルからタクシーで一時間近くかかる場所に出かけた時、ポケットに財布を入れたまま別のコートに着替えてタクシーに乗ってしまった。降りる時にお金を持っていないことに気付き、そこからホテルに戻ると40分くらいかかる状況だった。運転手に無賃乗車を疑われて警察に通報されそうになった瞬間、運転手のスマホで暗号資産を使っている画面がチラ見えした。暗号資産で払っても良いか提案をして、無事、事なきを得た。暗号通貨に助けられた。デジタル財布は旅先でも便利。というおもいっきり作り話感満載の美談。

どちらも返答に困るほどの嘘臭さ感120%。
まるで、売れない脚本家が書いたシナリオのようだ。

お返しに自分の旅話として、北朝鮮にどハマりして国境沿いを旅してきたことを言ったら、「友達同士で北朝鮮なんて話題にも上らないし、そもそもアジアにそんな国あったっけ?という感じ」だという。 

あれれれれ? でもマレーシアのクアラルンプール国際空港で金正男が暗殺されているし、クアラルンプールにはかつて北朝鮮レストランも存在していた。諸々会話が噛み合わないなー。




よく見るとツッコミどころ満載のインスタ写真

【インスタに過去に投稿されていた2枚の写真】


左:牛と牧草地の境界線。牧草地と空の境目。合成では?

右:今地球上では温暖化によって海水の温度が上昇し、珊瑚が壊滅状態になっている。白骨化した珊瑚なら拾ってもOKだが、生きてる珊瑚を手に取るのは絶対やってはいけないこと。
この珊瑚の写真に憤りを覚え、怒りの意味でイイネボタンを押したあとに聞いてみた。

筆者:この海はマレーシアなの? 私、スキューバーダイビングするのよー。ライセンスも持っているんだけど、この時の話を聞かせてくれない?

マーク:この時のメンバーは自分が一番年上で、若い後輩たちの面倒を見ていただけ。僕は海に入ってもいない。船の上に居ただけだよ。それにしてもダイビングまでするなんて、Saekoは本当にアクティブで良い人生経験を積んでいるね。




イーロン・マスクだったら北朝鮮を再建できる?!



先の北朝鮮の話題で爆笑してしまったことがある。
その前に、マークは「僕の仕事関係で知ってる日本人はみんな株や投資で裕福だ」「日本人はお金持ちしかいない」「最近は聞かないけど、昔は冗談でアメリカを買うか!って言ってたくらいなんだよ(笑)」という会話があった。なので、筆者が冗談で「マークはそんなに資金繰りが上手だったら、北朝鮮を買っちゃいなよ」と言ってみた。すると「僕の資産は1億ドル程度だから国を動かすのは無理だ」「北朝鮮にはMuskのような偉大な金融家と発展家が必要だ」との答えが返ってきたのだ。

Musk?  誰やねん?

と思ったらまさかのイーロン・マスクだったから大爆笑してしまったのである。
これ、言ってる本人も絶対笑ってるだろ!

『底辺からアメリカ大統領のシニアコンサルタントまで成長したのは全く不思議なことです。
Muskがいなければ、今回のアメリカ大統領選挙の最後の勝者はトランプになるとは限らなかった。』
などと、それっぽいことも言っていた。

だけど本当のお金持ちは「僕の資産は1億ドル」なんて絶対に言わない。
「東京に滞在した時に住んだ港区は、大使館なんかもあって富裕層が住んでいる街だった。」この一言に、「君も富裕層の仲間に入りたいでしょ?」 何となくそう言われている気がして、筆者はとても胸糞が悪くなった。港区にだって昭和から建ってる木造民家があるし、そもそも東京など興味がない人だってたくさんいる。まずその価値観の押し付けに嫌悪感を抱いた。あまりに港区押しがウザかったので、最近流行りの港区女子という生物について教えを説いておいた。



違和感を感じた会話


◾️『マークはいい体してるけど、ジムで筋トレしてるの?』
  ⇨トレーニングしなければ、きれいな洋服も着られません。あはは 

(健康や仕事との相乗効果の期待じゃなくて、目的は洋服かよ・・・)


◾️『私の好きな食べ物はインドのサモサ』
  ⇨ストリートフード? 僕は遠慮したい。インド人が作った食べ物に抵抗感がある。インド人が作るもので唯一好感を持てるのはカレーだけ。 

(真の国際人はこんなこと言わない。)


◾️東京で住んでいたと主張する「リッツカールトン」と「Hotel the Glanz」にカウンターの寿司屋は無かったと言い張る。このレベルのホテルにカウンター寿司がないはずがない。実際リッツカールトンにはhinokizakaという寿司屋がある。これを伝えても、ホテル内で食事を取るにも「列に並んだ」と言うのだ。リッツの朝食は学食じゃねぇーぞ!?


◾️港区ではホテルからほぼ出ない生活をしていたが、唯一遊びに出かけたのはスカイツリーだった。僕は国際免許を持っているから、レンタカーでスカイツリーに行った。

(思いっきり渋滞やん。都内は電車の方が早いし、もし本当に外国人が都内でレンタカーしたとしたらそいつは相当な車好きだ。ワイルドスピード3の見過ぎ。 嘘臭くて東京を訪れたことがない人の作り話に聞こえる。それに、国際免許は海外に行く直前に誰でも簡単に切り替えできるものなので、そこを自慢げに言われても困る。)


◾️富士山に登った多くの知人は、テントなど自分で持参してたはず。山頂付近に休憩小屋があることは知らなかった。

(富士山はテント禁止です。富士山はテントを背負って登れるほど簡単な山ではない。それ以前にこの男は富士山と八甲田山と岩木山の違いがわかっていなかった。スカイツリーから富士山が見えたと言ってたが、こいつは本当に富士山を見たことがあるんだろうか?)



詐欺師アカウントのフォロワーたち




詐欺師アカウントのフォロワーのインスタをよく観察してみた。左上のプロフィール写真は、単純に何度もコピーを繰り返して画質が劣化したのか、黒いポツポツがたくさん付いていてドット欠損みたいになっている。投稿数は20から70くらい。フォロワー数が100から2000前後とまちまちだった。一つ一つアカウントを覗いてみたところ、明らかに適当に作られたアカウントばかりなのがよくわかる。一見ただのゴルフやらパーティーの写真である。だけどこれらの画像を見て何となく違和感を感じ取る人はどのくらいいるだろう。写真が全く生きていないのだ。人物写真の中に廃墟を見た気がしてゾッとした。インスタはどんなにセンスの無い写真をアップしているアカウントだとしても、そこには生気を感じるものである。

なお、逆にフォローしているアカウントはすべて認証済みのマークが付いている俳優やスポーツ選手とニュースアカウントだけだった。




投稿されていたクリスマスツリーを調べてみた



2024年7月4日という夏真っ盛りの時期に投稿されていたクリスマスツリーの写真を、AIを使って画像検索し場所を特定してみたところ、ヒットしたのは北京だった。投稿されていた一年分の写真は、全部どこかから引っ張ってきた画像だろう。詐欺に使われるアカウントはわざわざ一年以上もの時間をかけて作られているのだろうか。それとも不正な外部ツールでも使って過去の日時で投稿して体裁を整えているのだろうか。




リアリティのあるLINE内容


一連の詐欺師との出来事をまとめるにあたり残念なことがあった。筆者はLINEを現在のスマホと以前のスマホとPCとで使用していた。同期させていなかったがために、別の機器でログインし直すたびに過去の履歴が全部消えてしまった。だから、肝心の最初の部分の記録が残っていない。どの段階で投資や暗号資産の話が出てきたのか、あくまで記憶を元に書いたものである。わりと最初の段階で、ベンツを買って貰った話や、母親が昔は買い物大好きで、車の中を買い物袋で一杯に埋め尽くしていた話を聞かされたが、自身のことを直接的に金持ちだとは言わず、あくまで富裕層の雰囲気を醸し出していた。

以上がマークとやり取りをした2週間の記録である。
最後に「しまった!」と思っていることがある。それは、色々送られてくる写真に対抗して、こちら側も様々な写真を送り返してしまったことだ。筆者はカメラを趣味にしているところがあって、元々撮った写真をたくさん保存していた。日の出のインドのガンジス川や、北朝鮮の国境など、今思えば調子に乗って結構レアな写真を送ってしまったのだ。この男は(いや、女の可能性もあるのか?)アカウントを変えて次もまたSNS型国際ロマンス詐欺をやるのだろう。もしかすると、こうやってリアリティのある写真をかき集めて保存しておくのも詐欺師の仕事の一つなのかもしれない。


ネットという名の仮面舞踏会


あくまで個人的見解となるが、以下が詐欺アカウントの可能性の一例

・アカウント名がbchyyxaa のような適当な文字列。
・フォローしているアカウントがすべて認証済みのマーク付き。
・フォロワーのアカウントを一つ一つ覗くと、投稿されてる写真が全部死んでいる。


そのアカウントのフォロワーの投稿写真や、フォロワーのフォロワー、そのまたフォロワーの投稿内容と、そんなところまで追って確認しないといけないのかと思うと正直げんなりしてくる。何年か前に、アメリカの司法委員会に呼ばれたSNS大手のCEOらに対して、共和党の上院議員が「オマエ達の手は血で汚れている」と言い放ったニュースがあった。これを見た時はずいぶん辛辣だなーと思ったものだが、やっぱりSNSなんてろくなもんじゃないと思う。

SNS型国際ロマンス詐欺は、被害額が年々増え続け346.4億円にも上るそうだ。インターネットの世界は今AIがとてつもないスピードで進化している。便利になる一方で、国を跨ぐ言語の壁や、人物像、映像、写真などは現実とフェイクの境界線が曖昧になってきている。そうなるとSNSと詐欺は拍車をかけて相性が良くなってゆくだろう。SNS上で少しでもお金の話が出た時点でそれは100%詐欺である。そして、一番の回避策はSNSなどやらないことだ。Facebookのザッカーバーグは自分の子供には絶対フェイスブックをやらせないと言っているし、ジョブズだってかつては自分の子供には絶対にスマートフォンを使わせないと言っていた。世の中そんなもんなのである。


凹凸という漢字がある。ここまで散々「感じた違和感」について書いてきたが、実はメッセージをやり取りしていて、自分の領域とマークの得意分野は全く異なるものなのに、この漢字のように型がピッタリとハマる感覚があった。違う価値観の者同士がディスカッションすることで、そういう考え方もできるよなぁと気付かされ、少しだけ視野が広がる感覚が心地良かった。詐欺師側がもしもそこまでわかってやっているとすれば相当の悪人である。今までの被害者たちが取られたものはきっと財産だけではないはず。「奴はとんでもないものを盗んでいきました……あなたの心です。」という、銭形のとっつぁんの声が聞こえてきそうである。幸い私自身は引っかかることは無かったが、会話の流れは現実味があって巧妙で、とても良くできたシナリオだったと思う。嘘の中にも少しの真理はあったと思いたい気持ちが今もどこかにあったりする。きっと世の中のほとんどの人は「こんなものに騙されるだなんてバカみたい」そう思っているのではないだろうか。筆者もその一人だった。だけど実際体験してみた結果、これはそんなに単純なものではない。もっと人の奥深くにある心の琴線に触れる何かがあった。家族の話や病気のこと、会うことのないその距離感だからこそ言える話もあった。国際ロマンス詐欺、これは引っかかる人がいて当然である。



レストランよりも屋台飯が好きです



筆者は昔からB級グルメの屋台飯が大好きだ。外で食べるだけで、レストランの食事よりも美味しく感じる人間である。例えニューヨークのソーホーを歩くとしても高級ブランド品なんか身につけたいと思わないし、そんな物は映画のプラダを着た悪魔を観ているだけでお腹一杯になる。洋服はTシャツと短パンとサンダルがいい。ワインよりもビールが好きだ。カバンは両手が空くリュック一択。車は後ろに予備タイヤを乗せてるゴツいのが好み。

今回、国際ロマンス詐欺師と対話をしてみて思ったことは、SNSによく投稿されているキラキラした私生活をどんなに見せつけられても、自分の嗜好や価値観はブレてはいけないということだ。



車いっぱいに詰め込まれたシャネルのバッグに憧れますか?



ドバイやシンガポールの高層ビルから夜景を見下ろしながらシャンパンを飲みたい。
裕福層の集いのパーティーに参加してみたい。高級ブランド品が欲しい。
もしもそういう暮らしや体験に少しでも憧れを抱くのなら要注意かもしれない。詐欺師はカッコいい車や家を持つのが大事だと思う、そんな価値観につけ込んでくる。そうでなくても敵は「将来に不安はないの?」などと暗黒の未来を煽ってくるし、こちら側が完全に恋に落ちたところを見計らって「急にお金が必要になった」状況を見せつけてきたりする。

どんな状況下でも「NO」と言い放つ、ブレない芯が必要なのだ。
シャンパンを出されても、ビールがいいと言える反骨精神。
5つ星ホテルを断って3つ星ホテルに泊まる勇気。
未来は自分で切り開きます。と言い返せる強さである。


あなたは車いっぱいに詰め込まれたシャネルのバッグに憧れますか?