
【インドでこのレベルの店はキレイな部類に入る。】
北インドを周遊した時、御多分に洩れず下痢になった。
インド人ガイドのシャルマと二人で、バラナシ大学の校内を散策していた時のことである。この大学の敷地はとても広く、観光客も見学可能な寺院もあって、寺院の入り口には学生達も気軽に買い食いできるチャイやサモサを売る店があった。
筆者は甘いものが苦手なのだけど、小さな素焼きのカップに入ったインドのチャイは激甘のくせに、クソ暑いインドの気候にはなぜか合っていて、とても美味しく感じるのが不思議である。この店でシャルマが、頼んでもいないサモサを一緒に買って来たのだ。チャイはスパイスが効いててとても美味しかった。しかし、サモサは口に入れた瞬間においしくないと思った。変な味がしたわけではないが、私の味覚は正しかった。ヤバい油でも使っていたんだと思う。だとしても高温で揚げているのだし、多少ヤバくてもまぁ大丈夫っしょ!と考えたのがあまかった。飲み込んだ直後からなんとなく腹部が熱いような感じがしたのだ。最初は気のせいかもしれないと思ってやり過ごしていたが、宿の部屋に戻った頃にはかつて経験したことのない猛烈な腹痛に見舞われた。お腹を抱えたまま前に後にヘッドバンキングである。あんなにベッドの上をのたうち回ったのは、たぶんこの時が人生最初で最後だろう。

【紙カップ入りサモサは、インドではあり得ない心遣い。】
インドに行くにあたり、情報収集の時点で日本の正露丸は絶対に効かないことを重々承知していたが一応持参した。この時、試しに正露丸を飲んでみたが、まるで効く気配は無かった。やっぱり繊細な日本の薬では、過激過ぎるインドの細菌には勝てないらしい。悶え苦しむ最中、別の部屋に滞在していたシャルマから内線が入った。
腹痛&下痢で苦しんでいる旨伝えると、
だから注意したでしょーーーーーーー!
「アナタ イッタイ ナニヲ カッテ タベタノ?! Saekoはいつもアレ食べたい、コレ食べたいって言う。 ワタシ、アナタにチュウコクシタ! ワタシ、シラナイヨ!!」
ぅおい! 原因はオマエが買ってきたサモサだよっ!!
現地の病は現地の薬でしか治らない。特にインドみたいな国ではそれが顕著だと思う。薬局で下痢止めと、勧められた粉末のORS(経口補水液)を買った。錠剤を飲んだらすぐに痛みが引いたので、それはそれで恐ろしい気がした。
インドのお粥はヨーグルトかけご飯

【インドでは体調不良時によく食べるらしいヨーグルトかけご飯。】
インドのお米は日本米と違って細長くてパラパラしたバスマティーライスである。
このご飯にヨーグルトをかけて、さらにザラメのような粒のデカい砂糖をまぶす。
これがインド流の日本でいうところのお粥のようなものらしい。
(もう やめてくれ・・・)と言う心の声はすぐにかき消され、
(もう好きにしてくれ・・・)という思いに変わるのに5秒もかからなかった。
確かにインドの炊き込みご飯であるビリヤニにも、ライタと呼ばれるヨーグルトソースのような小器が添えられる。これをスプーンでビリヤニに乗せて食べたりもするから、ヨーグルト with ライスは初めてではない。だけど今回のインド版お粥はライタとは全く異なる代物である。
こうして下痢騒動の日の夕食はヨーグルトかけご飯となった。
懲りずに食べたサモサは絶品!

【新聞紙に乗せただけの簡易的な手渡しが、逆に素朴で美味しさが増す。】
サモサで散々な目にあったのに、性懲りも無く寝台列車に乗り込む直前、ホームを歩く売り子から、バッドに山盛りになっていた揚げたてのサモサを買って食べた。
このサモサは今まで食べた中で最も美味しいものだった。
以降、筆者はこれに勝るサモサにまだ出会えずにいる。

ホームでサモサを頬張っていると、目の前の線路を全裸男が一点を見つめながらゆっくりと通過して行った。

駅のホームにあったトイレでは、入り口に今にも死にそうな病気の牛が横たわっていて入れなかった。それ以前に、ここのトイレはゴミと蜘蛛の巣だらけだから使わない方がいいと駅員に言われた。インドはとにかくネタに尽きない。カオスな国である。
帰国後に一週間ほど肺炎みたいな痰の絡む謎の咳に悩まされ仕事を休んだ。暇だった私は、ふと正露丸の大正製薬のホームページを覗いてみた。当時の正露丸の公式サイトには世界地図が表示されていて、正露丸が販売されている国に色付けがされているデザインだった。言わずもがなインドは空白である。そのままサイトの問い合わせボタンから「この度インドへ行って下痢をしましたが、念のために持参した正露丸はやはり効かなかった。もしインドで正露丸を販売できれば、大正製薬さんは世界一になれますよ。」といった趣旨の文面を送信。これはクレームでもなければご意見でもないので、一応文末に返信は不要です。と記載をした。
もちろん大正製薬から返事はなかった。
「2位じゃダメなんですか?」 そう思ったのかもしれない。
かつての蓮舫氏の声が聞こえてくるようだった。
ちなみにインド人ガイドのシャルマは時間差で後日高熱が出たらしく、次に予約が入っていたガイドの仕事をキャンセルしていた。
現地人ですら高熱を出してしまうバラナシ大学のあのサモサの正体は、一体何だったんだろう。何年経っても忘れられない思い出である。